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東京高等裁判所 平成11年(く)304号 決定 1999年8月30日

少年 K・R子(昭和58.7.21生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一  本件抗告の趣意は、少年及び法定代理人親権者母K・H子作成名義の各抗告申立書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、要するに、少年を医療少年院に送致した原決定の処分は著しく不当である、というのである。

二  そこで、記録を調査して検討する。

本件非行は、少年が、暴力団関係者と付き合う中で覚せい剤を使用した事案であるところ、本件非行に至るまでの経緯等についてみると、少年は、平成11年4月に高等学校に入学したが、すぐに喫煙で自宅謹慎処分を受けて学校に行きづらくなり徒遊生活を送るうち、同年五月中旬ころ女友達らとドライブをした際、同行した暴力団組員に覚せい剤を注射されて性交渉を持ち、その後右暴力団員からA(暴力団幹部)を紹介され、同月下旬ころからは頻繁に同人と会っては覚せい剤を注射されて性交渉を持つことを繰り返して本件に至ったものであるが、なお、本件発覚の端緒は、同年6月19日に少年が覚せい剤使用の影響と思われる幻覚を伴う異常な症状を呈したため、一緒にいた男友達が見かねて119番通報をしたことによるものである。また、鑑別結果通知書によれば、入所直後の少年は、話し方や動作が緩慢であり、また恐怖感を訴えるなど覚せい剤の影響が残っている様子であったことなどが指摘されており、覚せい剤中毒症状(特に情緒不安定)があるので医療措置が必要で一般少年院で処遇できるほど健康は回復していないと判定されている。以上に加えて、少年の覚せい剤使用は、比較的短期間のものではあるが、使用頻度が高く、1回の使用量も多量であったようであること、少年は前述した同年6月19日の出来事により警察の事情聴取を受けて尿を任意提出することとなったが、その後の同月27日にもAと会って覚せい剤を注射してもらったことが窺われることなどの諸点も合わせ考慮すると、少年の覚せい剤に対する依存性には深刻な面があり、この意味で非行性が重大なばかりでなく、要保護性も極めて高いというべきである。

そして、社会調査の結果によれば、少年の資質、生活態度、性格面の問題点、保護環境等は、概ね原決定の説示するとおりであり、特に、少年自身の「不良なら、覚せい剤をやらないのはダサイと思っていたので、覚せい剤を使用することの抵抗感はなかった。」との発言にみられるように、不良文化に全く抵抗感がないことや薬物に対する親和的傾向は、少年の非行の根本的な原因の一つになっているものと考えられ、また、家庭は両親の離婚により実父とは行き来がなく、本件当時少年は母方の叔父と同居している状況であり、実母は少年の問題が顕在化した後も適切な対応を全くとれないまま推移してきており、現状ではその監護に多くを期待することはできないといわざるを得ない。以上の諸点を考え合わせると、少年がようやく自己の問題点等について真剣に考え始めている様子が窺われること、これまで家庭裁判所への係属歴は審判不開始となった傷害事件が一件存するだけであること等を考慮しても、本件は社会内処遇を相当とする事案とは到底いえず、この際、医療措置により健康を回復させた上で、系統的、専門的な教育を行う少年院において、時間をかけて価値観の偏りを是正し、薬物と絶縁する構えを身につけさせることなどが是非とも必要である。

少年の所論は、仮に少年院送致がやむを得ないとしても、短期処遇勧告をすべきである旨主張するもののようであるところ、少年本人の抗告申立書等によると、少年に立直りに向けての積極的な気持ちが芽生えてきていることは十分認められるけれども、前記認定の少年の要保護性に照らせば、この際、ある程度時間をかけて、医療措置及び強力な矯正教育を行うことが、長い目で見た場合、少年の本当の立ち直りに必要なことは明らかである。

三  以上の次第であって、少年を医療少年院に送致した原決定の処分は、「医療措置終了後は中等少年院に移送相当」との処遇勧告をしたことを含めて相当であり、これが著しく不当であるとは認められない。論旨は理由がない。

よって、少年法33条1項、少年審判規則50条により、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 仁田陸郎 裁判官 下山保男 角田正紀)

〔参考1〕原審(横浜家 平11(少)3650号 平11.7.30決定)<省略>

〔参考2〕平成11年6月29日付け少年事件送致書記載の犯罪事実

一 犯罪事実

被疑者は、法定の除外事由がないのに、平成11年6月初旬ころから同年6月19日までの間、神奈川県内またはその周辺において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン若干量を自己の身体に使用したものである。

〔参考3〕処遇勧告書<省略>

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